【完】無知な彼女の周り
家について、スーツケースに荷物をまとめた。
結局、持っていくのはスーツケースに入れた衣類だけ。食器や何からは全部向こうにあるし、ないのは私の服だけだ。でも、その服も、かさばるから3日分ほどしかもって行こうとしてない。
制服も教科書も全部、明日、業者によって捨てられる。
「ありがとう」
家にそういって、家を出た。
「あれ?遥花ちゃん?」
今帰ってきたのか、家に入ろうとしている冬紀に会った。
「…その荷物どうしたの?」
やっぱり、スーツケースはばれたか。でも、引っ越すことはまだ言う気はない
「ちょっと、お母さんの顔が見たくて。すぐに帰ってくる」
いい理由だと思ったのに、
「ウソ。こないだおばさん来てたじゃん。帰っていくところに会ったよ」
なんだ、会ってしまったのか。
「…ホントにすぐ帰ってくるんだよね」
「うん。すぐだよ」
すぐなんかじゃない。もしかしたらこれから一生帰ってこないかもしれない。
でも、冬紀には私のことなんか忘れて欲しいんだ。冬紀には可奈子ちゃんが居る。私は最後までウソを吐かれたと、嫌ってくれてかまわない。その傷は必ず可奈子ちゃんが癒してくれるから。
「…じゃあ、いってらっしゃい」
「うん。バイバイ」
いってきますなんて言えないよ。帰ってこられないかもしれないのに…
そういって私は振り向かずに歩いていく。
その足取りは自分でも思うほど必死だった。