かたっぽうの恋
「だったら、私のお願い。聞いてくれる?」
先生の背中をツンツンとつついた。
「なに?」と振り向き、少し警戒した目つきで言う先生。
「言っとくけど、お願いにも限度があるぞ?」
「先生、私がどれだけ恐ろしい願いをすると思ってるわけ?」
先生は帰る支度を済ませ、私が座っているソファーの前に来て、机に腰を降ろした。
私と向き合っている。
「願いはなんぞな?」
そんな、間近で見られると照れちゃう。
「あの、逢いたくなったら…メールとかさせ…ろよ」
あ…命令しちゃった。
「…へ?」
先生は拍子抜けな表情をして、声が裏返った。
「それが、願い?」
「うん。だって先生、最近忙しくて、なかなか会えなかった、から…」
「だから?」
自分が何を言っているのか、よくわからなくなってきた。 まるで「逢えなくて寂しかった」と言ってるのと同じ事を言っている。
これは本心、だけど自分の口から発すると不思議とよくわからなくなる。
私は真っ赤な顔をして先生を見上げた。
「………っ」
「先生、顔。」
「えっ、なに!」
バッと顔を腕で隠す先生の顔は、私に負けないくらいに赤くなっていた。
先生を見上げたまま、私は動けなかった。