かたっぽうの恋
「ありがとうございました。」先生はクラスを見渡して教卓の前で深々と頭を下げた。

教室にいる全員から拍手を受ける先生は頭をあげると、キリッとした表情を見せた。


「僕は、養護教諭に本当になりたいのか、あやふやなまま今回の実習に入りました。」


大学の教授は途端に青い顔。藤原先生に頭を下げ、小声で謝っている。



「す、すみませんっ!」
「いやいや。」


藤原先生は、気にしてない様子で微笑む。


「藤原先生や校長。そして皆さんと過ごした、この授業がとても楽しかった。未来が見えたような気がしました。 」


教授と藤原先生は驚いた顔をして、教卓の前の先生を見た。


「何事も、やってみないとその楽しさはわかりません。逃げないでよかったと思いました。」


手を後ろで組み、一言一言に気持ちを込もっている。


「自分の気持ちを抑えないといけない時もあると思います。逃げたくなる事が必ず皆さんにも起こると思います。その時は大切な人の事を思ってみてください。」


大切な人を?


先生の大切な人って、だれ?



「僕は、それで頑張れました。」




なんて爽やかな笑顔を見せて、こっちを見るんだろう。

< 209 / 230 >

この作品をシェア

pagetop