【短編集】Love Sick
 



青柳さんはスポーツ雑誌によく載る。

何故なら彼はサッカー選手だからだ。テレビの中や、スポーツ雑誌は勿論、顔がかっこいいからとファッション雑誌などの中でもびっくりするぐらいに活躍している。
だからこんな彼の部屋も、ベットも、彼さえも、現役女子高生の私にはあまりにも大きすぎた。
また、彼はびっくりするぐらい紳士的で優しい男性を演じていた。
となれば、こんな「世界は俺中心に回っている」と思っている彼の姿を知っているのは私だけなのかもしれない。と思うと、少し嬉しくなる自分がいる。
だが、彼なんか大嫌いだ。何故彼女である私に優しくしないんだ。
そういえば、彼は以前様子がおかしかった。


「なあ、会いたいって言えよ」
「……は?」

暑い暑い夏の夜、彼の家でカップアイスを片手に電話をかけたら突然こんなことを言われた。

「何、言って、」
「だから、言えって」

不機嫌そうな彼の声が耳に入る。わたしはテーブルに食べかけのカップアイスを置いた。


「……いや、なんでですか!」
「お前、次会った時殴るぞ」
「だって、そんなの」
「うぜーな口答えすんなよ」
「そ、そもそも、なんでそんなこと私に言わせるのですか」
会いたいのなら、会いたいって言えばいいのに。
思わず、座っていたソファから立ち上がる。そしてはっと口を手で押さえた。ぽとり、とソファに置いてあったクッションが床に落ちたのがぼんやり見えた。

やばい。これは確実に、次会った時に彼に殺される。オフの日にいつも帰ってくる彼の手がわたしの血でべたべたになる。いや、それは別に構わないが、その血がわたしのということが非常に嫌だ。痛いことは嫌いだ。避けたい。だが、これは、これは……

「……お前」

彼の声が聞こえて、ぎゅっと目を閉じた。瞬間、ぷつり。
つー、つー、つー。



 
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