魔道師と暗殺者
2節
その日の夜。
悠人は屋根裏にいた。
乙女座を守護にもつ悠人にとって、処女宮が現れる夏の時期というのは、一番力が発揮できる季節だった。
ましてや、今日は満月で、処女宮とそのシンボルである水星が交わる日でもある。
たとえ、先ほどまで姉と揉めていて精神状態がグシャグシャであろうが、こんな日に新しい魔法を試さないなんて、魔法使いとしては失格である。
「だけど、コレといってやりたいこともないしな・・・。今日の先咲さんの記憶でも消しておくか・・・。」
不埒な告白によって、傷つけてしまった彼女。
明日からどんな顔をすればいいのか悩む。
だったら、一層のこと今日の記憶を丸ごと彼女から消し去ってしまおう。
そういう算段だった。
そうと決まれば話は早い。
悠人は、早速屋根裏にある祭壇に祝詞の準備を始める。
蝋燭だけを唯一の光源とし、祭壇の机の上に、祝詞が書き込まれているレプリカの魔剣、ワンドと鏡を置き、お香を炊く。
この間まで、照応表と、式次第書というものもおいてあったが、アレはあくまで呪文と星の位置をメモしてある、一種のカンニングペーパーのようなもの。
暗記してしまえば、必要ない。
そして、北に深海の砂、南に蝋燭、西に聖水、東にヤドリギの実を置き、その中央で魔方陣を書いていく。
魔方陣を書くときは、別にチョークでもいいのだが、一応、雰囲気重視というか、何があっても言い様に、悠人は自分の背丈ほどある杖を持つコトにしている。
映画に出てくるような魔法使いが使っているようなものだ。
唯一、違うところ言えば、切っ先にチョークがついていて、床に落書きができることころだろうか・・・。