秘密のMelo♪y③*ウィーン編㊤*
――楓サイド――
「…そして、それから四年…。アメリカで治療を続けていた真琴さんは、限界と悟り、生まれ故郷である日本へ戻ってきました」
手紙に書かれていること。
この医者の話。
二つを合わせて聞けばよく分かる。
行方不明となっていた真裕の母の五年…。
互いに苦しんできたんだと思うと、今や涙も流せなくなった真裕の姿がさらに痛々しく見えた。
「何度かフランスの貴女方のところへ戻ろうとなさいました。しかし…」
―『今さらだものね…。きっと許してくれないわ』
「…そう仰って、哀しそうな笑顔を見せられた。あの顔はいつまでたっても忘れられません」
虚ろな目をして母親のそばに寄り添う真裕に、さらに語りかける。
「我々は、真琴さんが日本に戻って来てから今まで一年、共に闘ってきました。一時期病状が回復したこともあり…もしかしてと、僅かばかりの奇跡に縋ったこともあります」
「……」
「しかし…。……無念です。なんとしても彼女の希望を叶えてさしあげたかった。無念です…。申し訳ありません」
真裕の後姿に深々と頭を下げると、「これを…」とまたなにか差し出した。
「真裕様…」
「あ…僕に」
「あ、ああ…。お願いします」
代わりに受け取ったそれは小さな箱。
メッセージカードが添えられていた。
まったくなにも、目にも耳にも入っていない様子の真裕のすぐ横に腰掛け、顔を覗き込んで呼びかけた。
「真裕。お義母さんからの」