秘密のMelo♪y③*ウィーン編㊤*

人というのは現金なもので、自覚すると急に痛み出してくるのだから不思議だ。

ズキズキしだした左手を差し出して、いつの間にか右手の薬指にはめられていた指輪をじっと見つめた。

母様と父様の……婚約指輪…。


「あら。それ婚約指輪? ま、もしかして…」


「違う」


「ええー? 違うの? あ、そうよね。そういえばもう結婚してるんだものね。そこは結婚指輪だわ! ちょっと楓、あんたそのくらいのことはー」


「勝手なことしておきながらなに言ってんだよ…」


た、たしかに…。

事後報告されたんじゃねえ?

うん…。…うん。


「まおちゃん。私、あなたのいいお義母さんになるからね」


「えっ…」


「…真琴さんには……敵わないけれど。でもいないよりマシでしょっ? 遠慮なくなんでも言ってね。絶対協力するから。ね…」


ママ…。


「ありがとう…ママ…!」


どうして……かっくんもママも、こんなに優しいの?

あたしなんて迷惑かけてばっかりなのに…。


「水くさいこと言わないの~。楓なんてだって妻なんだもの❤私にとっては娘だし、当たり前でしょ? 家族なのよ、もう」


とても優しい、陽だまりみたいにあったかい笑顔でママはそう言った。

そして、またぽろぽろと涙を流すあたしを、なだめるように抱きしめた。


「ママ~…!」


…母様。

あたし、幸せものみたい。

こんなに想ってくれる人がたくさんいて、そばにいてくれる。

本当に…。

幸せものだね…。


< 161 / 272 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop