ディアパゾン−世界に響く神の歌−
埃っぽい土間を抜けて屋根続きの別棟になった工房に入ると、いつも通りの木を挽く音に混じって叔父の声がした。
見慣れない男の後姿に、客が来ているのがわかって、叔父の邪魔をしないようアナは控えめに声をかけた。
「ただいま戻りました」
アナの声に客の男が振り返り、しわの目立つ浅黒い顔に驚くような表情を浮かべた。
かと思えば、破顔一笑し、
「アナちゃんか!
おじさん覚えてるか?お父さんと同じ隊にいて、何度か家にお邪魔したことあったろう?」
と一瞬面食らうほどよく通る大きな声でまくし立ててきた。絶句するアナにかまう様子もなく、男は話し続けている。
「ちょっと用があってな、恩のある小隊長殿のご実家に寄らせてもらったのさ。
ちっちゃかったのに、別嬪な娘になって…」
アナは話を聞きながら、ぼんやりと子供の頃に父と酒を酌み交わしていた男の顔を思い出していた。
男と同じように父もよく通る声をしていた。ウーダン、と男を呼ぶ父の声がよみがえる。
五年前の戦争で亡くなった父は、妻を嵐で死なせてから五年、男手一つでアナを育ててくれた。
実際には兵役でほとんど家に帰れなかった父の代わりに、アナの面倒を見てくれたのは当時から独身の叔父だったのだが、時折帰ってきた父親は優しくアナにとってかけがえのない存在だった。
「わざわざお寄りいただいてありがとうございます」
深く頭を下げたところで、アナは客である男にお茶も出されていないことに気付いて、ずぼらな叔父らしいと思いながら、慌てて台所に戻った。
「あぁ、すまん。茶も出さんで」
急に踵を返したアナの意図に気付いた叔父が、ぼそりとつぶやくのが後ろに聞こえる。
湯を沸かし始めれば、叔父の声は聞こえなくなるが、ウーダンのよく通る声は台所にまで聞こえてきた。
小隊長殿も猛者とは思えん美丈夫だったが良く似ているな、などと話すおおらかな声に、アナも思わず笑みがこぼれる。
叔父と客の分二つの湯呑みを盆に載せて工房に戻ると、ウーダンは一入る叔父の相槌に九しゃべるような勢いで話している。
見慣れない男の後姿に、客が来ているのがわかって、叔父の邪魔をしないようアナは控えめに声をかけた。
「ただいま戻りました」
アナの声に客の男が振り返り、しわの目立つ浅黒い顔に驚くような表情を浮かべた。
かと思えば、破顔一笑し、
「アナちゃんか!
おじさん覚えてるか?お父さんと同じ隊にいて、何度か家にお邪魔したことあったろう?」
と一瞬面食らうほどよく通る大きな声でまくし立ててきた。絶句するアナにかまう様子もなく、男は話し続けている。
「ちょっと用があってな、恩のある小隊長殿のご実家に寄らせてもらったのさ。
ちっちゃかったのに、別嬪な娘になって…」
アナは話を聞きながら、ぼんやりと子供の頃に父と酒を酌み交わしていた男の顔を思い出していた。
男と同じように父もよく通る声をしていた。ウーダン、と男を呼ぶ父の声がよみがえる。
五年前の戦争で亡くなった父は、妻を嵐で死なせてから五年、男手一つでアナを育ててくれた。
実際には兵役でほとんど家に帰れなかった父の代わりに、アナの面倒を見てくれたのは当時から独身の叔父だったのだが、時折帰ってきた父親は優しくアナにとってかけがえのない存在だった。
「わざわざお寄りいただいてありがとうございます」
深く頭を下げたところで、アナは客である男にお茶も出されていないことに気付いて、ずぼらな叔父らしいと思いながら、慌てて台所に戻った。
「あぁ、すまん。茶も出さんで」
急に踵を返したアナの意図に気付いた叔父が、ぼそりとつぶやくのが後ろに聞こえる。
湯を沸かし始めれば、叔父の声は聞こえなくなるが、ウーダンのよく通る声は台所にまで聞こえてきた。
小隊長殿も猛者とは思えん美丈夫だったが良く似ているな、などと話すおおらかな声に、アナも思わず笑みがこぼれる。
叔父と客の分二つの湯呑みを盆に載せて工房に戻ると、ウーダンは一入る叔父の相槌に九しゃべるような勢いで話している。