ディアパゾン−世界に響く神の歌−
2
工房の近くまで戻ったところで、裏庭に叔父の姿が見えた。
叔父も足音に気付いて振り返り、アナの姿を見るや目を見開いた。
「アナ、仕事も放ってなにしてる」
叔父の怒りに満ちた声は、アナを萎縮させた。
潅木を拾いに行くときに必要な道具はすべて裏庭に置いたままだ。林で仕事をしていたとは言い訳できない。
「ごめんなさい。うっかり盆を持って出ちゃってて。風で飛ばされたのを取りに行ってたら、遅くなってしまって。申し訳ありません」
下手に取り繕って、火に油を注ぐよりはマシだ、とアナは正直に謝罪した。
叔父は唯一の家族だけれど、仕事においては師匠でもある。甘えたことをしてはいけない。
わかっていたのに、怒らせるようなことをしてしまったことにアナは落ち込む。
必要とされる人間になろうと決めたばかりなのに、そうできない自分に歯噛みした。
「──アナ、泣いたのか?どこか怪我でも…」
アナのうつむいた頭の上から叔父が何か言うのが聞こえたが、それを吹き飛ばす大きな声がかぶさる。
見れば、ウーダンが工房の裏口から出てくるところだった。
「おおっ。無事帰ってきたな。裏にいるはずが姿が見えないって言うから心配したよ」
あっという間にアナの隣まで来たかと思えば、ウーダンは大きな手で背中をばしばしと叩く。反対の手では同じように叔父も肩を叩かれていた。
「あんまりしかってやるな。まだまだ若い女の子だ。少しくらいは自由な時間を持たせてやれよ」
ウーダンの言葉に叔父はただむっつりと口をつぐんだだけだった。