ディアパゾン−世界に響く神の歌−
アナは不思議と、父が戦死したのではなく味方に殺されていたことに衝撃はなかった。父はもういない、その事実は変わらない。
それよりも…父が死んでからずっと、ずっと奥深くにしまわれていたのだろう、叔父の気持ち。
ダリルに対する怒りや憎しみ、権力の壁に阻まれて決して晴らすことの叶わない恨み。
己の脆弱さに歯噛みする思い。
叔父がずっと胸の奥に飲み込んで押さえて来た気持ちを知って、アナは自分の苦しみ以上に圧倒されていた。
(そういえば父が亡くなる前の叔父さんは…
まだ子どもだったから記憶があやふやだけど…。
もともと偏屈でぶっきらぼうだけど、もっと普通に笑うこともあった。
あの、たまに見せる笑顔をいつから見ていないんだっけ…)
父が死んでからじゃないだろうか。寡黙な叔父が人を寄せ付けない暗い雰囲気をまといだしたのは…。
そんなことを今になってアナは思い出した。
ぬるくなったお茶に手もつけようとしない叔父の筋張った手を見ながら、アナは自分の心がさっきより落ち着いてくるのを感じた。
「叔父さん、
あたし明日行くから
遠く、誰にも見つからない場所に捨ててくる」
それは自分で思うより、強くはっきりとした声だった。
「叔父さんもあたしも、何も知らない。──それで、いいんだよね?
でも、ウーダンさんは大丈夫なの?もしも見つけられなかったら…」
アナはすっかり冷めてしまった叔父のお茶を入れ直すために、湯呑みを盆に乗せた。
すると叔父も幾分落ち着いたように顔を上げる
「誰も見も知らないものを探してここを突き止めたなら、それがここから無くなれば、それもわかるはずだ。
ないものを見つけられなかったからといって責められはせんだろう」
その声にはいつものぶっきらぼうな言い方が戻っていて、アナは少し安堵し台所に向かった。
その背中に叔父の声がかかる。
「アナ。
それを、モルガの河に捨ててくれ…
モルガの流れに沈めれば絶対に人の手に渡らないだろう。
いかなるものも決して再びこの世に戻らない河だ」
叔父は自分の兄が沈んだ河に、世界を救うかもしれないものをも飲み込ませるように言う。
アナはただ静かにうなづいた。
それよりも…父が死んでからずっと、ずっと奥深くにしまわれていたのだろう、叔父の気持ち。
ダリルに対する怒りや憎しみ、権力の壁に阻まれて決して晴らすことの叶わない恨み。
己の脆弱さに歯噛みする思い。
叔父がずっと胸の奥に飲み込んで押さえて来た気持ちを知って、アナは自分の苦しみ以上に圧倒されていた。
(そういえば父が亡くなる前の叔父さんは…
まだ子どもだったから記憶があやふやだけど…。
もともと偏屈でぶっきらぼうだけど、もっと普通に笑うこともあった。
あの、たまに見せる笑顔をいつから見ていないんだっけ…)
父が死んでからじゃないだろうか。寡黙な叔父が人を寄せ付けない暗い雰囲気をまといだしたのは…。
そんなことを今になってアナは思い出した。
ぬるくなったお茶に手もつけようとしない叔父の筋張った手を見ながら、アナは自分の心がさっきより落ち着いてくるのを感じた。
「叔父さん、
あたし明日行くから
遠く、誰にも見つからない場所に捨ててくる」
それは自分で思うより、強くはっきりとした声だった。
「叔父さんもあたしも、何も知らない。──それで、いいんだよね?
でも、ウーダンさんは大丈夫なの?もしも見つけられなかったら…」
アナはすっかり冷めてしまった叔父のお茶を入れ直すために、湯呑みを盆に乗せた。
すると叔父も幾分落ち着いたように顔を上げる
「誰も見も知らないものを探してここを突き止めたなら、それがここから無くなれば、それもわかるはずだ。
ないものを見つけられなかったからといって責められはせんだろう」
その声にはいつものぶっきらぼうな言い方が戻っていて、アナは少し安堵し台所に向かった。
その背中に叔父の声がかかる。
「アナ。
それを、モルガの河に捨ててくれ…
モルガの流れに沈めれば絶対に人の手に渡らないだろう。
いかなるものも決して再びこの世に戻らない河だ」
叔父は自分の兄が沈んだ河に、世界を救うかもしれないものをも飲み込ませるように言う。
アナはただ静かにうなづいた。