ディアパゾン−世界に響く神の歌−
「箱と響く者だと?新しい『神』か?
この箱を響かせることの出来る者は『神』しかいないのだろう?」
興奮したダリルは足音も荒く、魔術師に詰め寄った。
上体を持ち上げるように襟首を掴まれて魔術師のフードが後ろに滑る。
隠されていた顔はまだ若い男の物だ。
さらさらと肩を滑る長い黒髪に、透けるように白い肌の艶麗な面。濃いまつげに囲まれた漆黒の瞳が物憂げにダリルの顔を映した。
ダリルはその視線に臆したように息を呑んだ。ぎこちなくローブを掴んでいた指を解く。
「──ダリル様。世界のすべてに共鳴するのは『神の声』、その声を世界の果てまで響かせるのが『箱』の意味。神の存在事態が何かに響く事はないのです。
ただ──始祖の残された魔術の書よれば、神の生まれた血統には特別の力が宿る事もあると。
もしかしたら、『前』の神の子孫があの地方にいて、欠片の放つ波に干渉しているのかもしれません。ですが、欠片の存在は我々しか知らぬこと。――何の障害にもなりますまい」
儚げですらある魔術師の話す声は、まるで毒のようにダリルの耳を侵して、有無を言わせぬ強さで思考を奪う。
身なりの上等さからも誰が見ても魔術師の雇い主であることを疑わせない壮年のダリルは、己が年若い男に気を呑まれかけたことを繕うように、咳払いを一つ着いて居住まいを正した。
威厳のある姿を取り戻そうと、殊更にゆっくりと低く落ち着いた声を出す。
「よし、早速兵を向けよう。自国の土地だ。早々に見つけ出せるだろう」
長居したくないという衝動のままにダリルは踵を返し、垂れ幕の向こうに歩を進める。扉の前にかかった布を掴んだところで、後ろから玲瓏な声がその背をなでた。
この箱を響かせることの出来る者は『神』しかいないのだろう?」
興奮したダリルは足音も荒く、魔術師に詰め寄った。
上体を持ち上げるように襟首を掴まれて魔術師のフードが後ろに滑る。
隠されていた顔はまだ若い男の物だ。
さらさらと肩を滑る長い黒髪に、透けるように白い肌の艶麗な面。濃いまつげに囲まれた漆黒の瞳が物憂げにダリルの顔を映した。
ダリルはその視線に臆したように息を呑んだ。ぎこちなくローブを掴んでいた指を解く。
「──ダリル様。世界のすべてに共鳴するのは『神の声』、その声を世界の果てまで響かせるのが『箱』の意味。神の存在事態が何かに響く事はないのです。
ただ──始祖の残された魔術の書よれば、神の生まれた血統には特別の力が宿る事もあると。
もしかしたら、『前』の神の子孫があの地方にいて、欠片の放つ波に干渉しているのかもしれません。ですが、欠片の存在は我々しか知らぬこと。――何の障害にもなりますまい」
儚げですらある魔術師の話す声は、まるで毒のようにダリルの耳を侵して、有無を言わせぬ強さで思考を奪う。
身なりの上等さからも誰が見ても魔術師の雇い主であることを疑わせない壮年のダリルは、己が年若い男に気を呑まれかけたことを繕うように、咳払いを一つ着いて居住まいを正した。
威厳のある姿を取り戻そうと、殊更にゆっくりと低く落ち着いた声を出す。
「よし、早速兵を向けよう。自国の土地だ。早々に見つけ出せるだろう」
長居したくないという衝動のままにダリルは踵を返し、垂れ幕の向こうに歩を進める。扉の前にかかった布を掴んだところで、後ろから玲瓏な声がその背をなでた。