ディアパゾン−世界に響く神の歌−
「こいつの将来はこいつが決める。何のために仕事を覚えさせたと思ってる」

アナはぽかんと口を開けて叔父を見たが、すぐに叔父は背を向け自分の身支度に取りかかった。

ウーダンも小さく肩をすくめると、やれやれとぼやきながらも大して気にする風でもなく、荷物を足元に下ろして近くの椅子に腰掛けた。

アナは心のずっと奥の方から、じわじわとこみ上げてくる温かい気持ちに指先が震えるのがわかった。

(叔父さんは、選べるようにしてくれてたんだ。あたしが自分で生きていくことも、どこへ行くことも出来るように)

甘えることも出来なかった叔父の厳しさの理由がわかって、今までの葛藤や寂しさがゆるゆるとほどけていく。

アナは震える指をぐっと握り固める。

――この叔父に恥じないような生き方をしなければ。
人に決めてもらった道ではなく、自分で決めたことをやり遂げられるようになろう。


「叔父さん。行ってきます!」


決意を込めて大きな声で叔父の背中に声をかけると、目頭が熱くなった。

いそいでウーダンの脇をすり抜けて、アナは表に出る。

山から吹き降ろす風は雨雲が出るような天気のせいか、いつもより強くアナの背中を押した。




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