ディアパゾン−世界に響く神の歌−
その時、ギイッときしむ音をさせて、部屋の戸が押し開かれた。
「──っ」
アナも驚いたが、入ってきた男も目覚めていたアナに驚いたようで、息を呑んで声もなく後退った。
大げさに驚いた男の顔がランタンに照らし出され、アナはその姿に状況も忘れて思わず見とれてしまっていた。
――魔力を貯めるといわれている髪は、魔術師らしく長く伸ばされていて、その薄い青のような灰色の髪のなめらかさもさることながら、降り積もったばかりの雪のような肌の白さに深い青の瞳。女のような柔らかな作りではないのが、逆に稀有な美貌という印象だ。
村どころか街でもなかなかいないような美しい男だった。
『あ、あの…。加減はどうですか?悪いところはないようだったのですが、朝からずっと眠ったままでしたから──』
部屋に入ってくるのかと思われた男は、その綺麗な顔に情けなそうな表情を浮かべ、戸に身体を隠して顔だけ覗かせている。
正確には、少し引っ込んでしまったので不安げに揺れる青い瞳だけ見えた。
その声は不思議な響きでアナの耳に聞こえた気がしたが、その時は特に気に留めず、それよりもおどおどとした話し方やそぶりで、男の外見の美点は大幅に損なわれるようだった。
まるで主人に叱られた犬のようだ、とアナは思う。
アナが無遠慮に男を見ていると、男はますます萎縮し視線も合わせられないようで、アナは慌てて声をかけた。
「あ、あの。
あなたが助けて下さったんですか?」
声を出した時、はっとアナは自分が素っ裸だったことを思い出した。
助けてくれた相手は、残念ながら女ではなく若い男だったようだ…。
一気に羞恥が込み上げた。
しかし、曲がりなりにも命を助けてくれた相手にそんなことを責められるわけもなく、
「あの、あたしの服は…」
とだけ控えめに尋ねた。
「──っ」
アナも驚いたが、入ってきた男も目覚めていたアナに驚いたようで、息を呑んで声もなく後退った。
大げさに驚いた男の顔がランタンに照らし出され、アナはその姿に状況も忘れて思わず見とれてしまっていた。
――魔力を貯めるといわれている髪は、魔術師らしく長く伸ばされていて、その薄い青のような灰色の髪のなめらかさもさることながら、降り積もったばかりの雪のような肌の白さに深い青の瞳。女のような柔らかな作りではないのが、逆に稀有な美貌という印象だ。
村どころか街でもなかなかいないような美しい男だった。
『あ、あの…。加減はどうですか?悪いところはないようだったのですが、朝からずっと眠ったままでしたから──』
部屋に入ってくるのかと思われた男は、その綺麗な顔に情けなそうな表情を浮かべ、戸に身体を隠して顔だけ覗かせている。
正確には、少し引っ込んでしまったので不安げに揺れる青い瞳だけ見えた。
その声は不思議な響きでアナの耳に聞こえた気がしたが、その時は特に気に留めず、それよりもおどおどとした話し方やそぶりで、男の外見の美点は大幅に損なわれるようだった。
まるで主人に叱られた犬のようだ、とアナは思う。
アナが無遠慮に男を見ていると、男はますます萎縮し視線も合わせられないようで、アナは慌てて声をかけた。
「あ、あの。
あなたが助けて下さったんですか?」
声を出した時、はっとアナは自分が素っ裸だったことを思い出した。
助けてくれた相手は、残念ながら女ではなく若い男だったようだ…。
一気に羞恥が込み上げた。
しかし、曲がりなりにも命を助けてくれた相手にそんなことを責められるわけもなく、
「あの、あたしの服は…」
とだけ控えめに尋ねた。