ディアパゾン−世界に響く神の歌−
2
やっとひと心地ついて、アナはまず男に鞄のことを確かめなければと思った。
アナは伺うように細く開いた戸の隙間からそっと隣の部屋に顔覗かせた。
食卓のあるその部屋は開け放たれた窓から夜風が入り、閉め切られていたさっきの部屋と比べて肌寒く感じた。
その部屋のランタンに照らし出された人影は一つだけ。さっきの男が机の側に立ち、両手で包むように何かを掴んで胸の辺りに持ち上げている。
窓の方を向いている男の横顔はランタンの揺れる灯りに浮かび上がり、一層はかなく、今にも泣きだしそうな顔に見えた。悲しそうに伏せた目は、一枚の絵でも見ているような圧倒される美しさだった。
その美しい絵の中で、白い指先に包まれた何かが白い光を発している。指の間から漏れる光は強い。
(──それはっ)
とアナが口にしようとした時、男の唇から例えようもなく美しい音が溢れだした。
アナは伺うように細く開いた戸の隙間からそっと隣の部屋に顔覗かせた。
食卓のあるその部屋は開け放たれた窓から夜風が入り、閉め切られていたさっきの部屋と比べて肌寒く感じた。
その部屋のランタンに照らし出された人影は一つだけ。さっきの男が机の側に立ち、両手で包むように何かを掴んで胸の辺りに持ち上げている。
窓の方を向いている男の横顔はランタンの揺れる灯りに浮かび上がり、一層はかなく、今にも泣きだしそうな顔に見えた。悲しそうに伏せた目は、一枚の絵でも見ているような圧倒される美しさだった。
その美しい絵の中で、白い指先に包まれた何かが白い光を発している。指の間から漏れる光は強い。
(──それはっ)
とアナが口にしようとした時、男の唇から例えようもなく美しい音が溢れだした。