ディアパゾン−世界に響く神の歌−
「──手に取ったときに…何か、見た?声とか…」
半信半疑で、シュエラも自分と同じもの――不思議な女の人の姿を見たのではないかと確かめた。
シュエラはおずおずと、様子を伺うように答える。
『なにも見えたりはしなかったですけど、声が…。
“あなたの声が響く”と。
その声を聞いたら、駄目だと思ったのに歌わずにはいられなくなって…』
(──見つけて。世界と共鳴する歌声を。欠片がきっと導く。
あなたには、わかる。
波が世界に広がる。
見つけて)
アナの頭の中で幻の女性が言った言葉が甦る。
しかしアナが欠片を手にしたときに伝えられた事と、シュエラが伝えられた事は微妙に異なる。
シュエラに“あなたの声が響く”と聞こえたという事は、アナが見つけるべき相手はシュエラなのだろうか。
(世界に響く…歌声?シュエラの声が?)
自分の中の何かがそうだと肯定しているような気がしたけれど、アナはまだ確信できなかった。
こんなに近くに、こんなにも簡単に、偶然に出会えてしまえるのだろうかという疑心が拭えない。
(それとも、これが欠片が導くと言う事なの?)
沈黙してしまったアナの顔をシュエラはじっと見ている。
その目の色が青いせいで、その青い水の色が涙になって零れるように見えた。それくらいにシュエラは悲壮な顔をしている。
『勝手に持ち物に触ったりして、すみませんでした』
シュエラの表情に諦観が見えた。
丁寧に頭を下げられ、アナはシュエラに距離を取られたのがわかった。
途端にアナの胸の奥がきゅうっと苦しくなる。
自分でも理由のわからないその痛みに、アナは欠片を握った手で胸を押さえた。