ディアパゾン−世界に響く神の歌−
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今、この新生アルゴール帝国の皇位は空位のままだ。
五年前の隣国アシェントラとの間に起きたモルガ渓谷の戦いにおいて先の皇帝が戦死したのを皮切りに、アルゴールの宮中は相次ぐ不幸に見舞われた。
皇帝が崩御し、本来ならすぐにも成人していた第一皇子が次の皇帝になるはずだった。しかしこの国において皇位継承に絶対に必要とされ、自ら主を選定するという呪力を持った『継承の剣』が戦の混乱の中で失われてしまったのだ。
新生アルゴール帝国の始祖によって創られ、歴代の皇帝たちに受け継がれてきたものだった。連日連夜の討議の結果、新たな『継承の剣』を創るまでの五年間は第一皇子は皇帝ではなく執政者として権力を制限された。
そして一年の後、新たな不幸に国は揺れた。
戦後の外交や復興に尽力した第一皇子が、家臣からも国民からも名実共に次期皇帝と認められながら、突然の病によって急逝してしまったのだ。
さらに追い討ちをかけて、第二皇継承者であり、第一皇子の右腕だった第二皇子が兄の後を追うように急逝し、失われた『継承の剣』の探索に発っていた当時十四歳の第三皇子までもが行方不明になった。
そうして、ついには先の皇帝の実弟であるダリルが執政者となる。
それから四年の月日が過ぎ、新生アルゴール帝国は一応の安定を得ていた。
五年の執政期間を経て正式な皇帝に承認すると暗黙の内に決められていたが、ダリルに不信を抱く家臣が少なくないのもまた事実だった。
ダリルが半ば投げ出している第三皇子カトラムの探索も、ダリルが正式な皇帝となるまでに何とか見つけ出そうとする動きが一部の家臣たちの中で強くなっていた。