ディアパゾン−世界に響く神の歌−
4章 山賊と剣士
1
シュエラの村からマリまではほど近く、道程も平坦であった。
旅慣れた者なら半日もあればマリの街の入口へ辿り着くことができるだろう。
しかしアナとシュエラがマリへ着く頃にはすっかり日は暮れて、数刻前まではにぎやかだったはずの街の通りも人影がまばらになっていた。
二人は疲れを隠せないぐったりした表情で、とりあえず目についた小さな宿の戸をくぐった。
そこは値段も格安だが中は外観に負けず劣らず粗末なものだった。
入り口の隅に捨て置かれた酒瓶には小さな虫がたかっているし、宿のどこからか時折うなり声や怒鳴り声が聞こえてくる。
アナは一瞬躊躇したが、クタクタに疲れていたので今からまともな宿を探し歩くという選択肢は頭になかった。
(今は一刻も早く靴を脱いで横になりたい…)
アナはシュエラと部屋の前で別れ、狭い部屋に入ってすぐに寝台に倒れてしまった。
薄い壁一枚挟んだ隣の部屋でも、シュエラが寝台に身を任せる音が聞こえてきた。