ディアパゾン−世界に響く神の歌−
2章 旅立ち

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「『──始祖ガスパード・イル・カン・アルゴールは、大陸全土を沈める大洪水からアルゴールの民を救った。前世紀の偉大な魔術師は、その輝かしい威徳から新生アルゴール帝国の建国の祖となった。』」

昼の水汲みから戻る途中、ジュカイの村の集会所の脇を通りかかった村の娘、アナの耳に聞きなれない男の声が聞こえた。

水の入った重い壷を頭に載せたまま、思わずといった感じで立ち止まるアナに、同じように壷を載せて並んで歩いていた少女が声をかける。

「昨日から学導師様が来てるんだって。新生アルゴール建国記か…懐かしいね」

アナを促して歩き出しながら、少女は愚痴を言うように言葉を続けた。

「あたしももっと勉強できてたらなぁ。院にまで行きたいとは言わないから、せめて学校に行けたらよかった」

年に三度訪れて、歴史や算術、初歩の医術などを教えてくれる学導師に優秀と認められれば、各領地の都市に一つづつある寄宿制の学校に通うことを許され、さらにそこで良い成績を修めた者は、帝都ガイソールにある院と呼ばれる最高学府に学ぶことができるのだ。十五歳で成人とみなされるこの国で、すでに十六歳になっているアナたちが学導師に学ぶ機会はもうない。
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