日蔭にゆれる羽

険悪な空気を感じとったのか、コーヒーはガァーとけたたましい鳴き声をあげて逃げていった。

キヨの羽は逆立ってばさばさになり、手を広げ大きく一度羽ばたかせた。次第に手は翼に飲み込まれ一体化し、白目が黒ずんでいき、皮膚にある毛穴という毛穴が開き白い羽毛が生え、青みがかかった黒髪は白く染まり羽毛に変わった。足は凸凹した黒い表面に、指先はかぎ爪、口はつまわれたように長く伸び黒いくちばしに変化した。キヨのもうひとつの姿だ。鳥の化け物、自分でそうよんでいた。

真っ黒の瞳はずっとカイを捕らえたままで、大きく息を吸い込んだ。カイは顎が外れたのか口が開けっ放しだ。

キィーーーーンッ!!

どんな鳥よりも高い声で鳴くと、カイは耳を塞ぎきつい目つきでキヨを睨んだ。

鼓膜をやぶってやる。

再度高い鳴き声をあげようと、息を吸い込もうとしたが喉に何かが詰まったようで吸えない。

カハッ。

渇いた咳が口から零れた。

苦しい。

熱い。

あいつだ。カイだ。

頭の中に自分とは違う誰かの声が聞こえた。急かすように繰り返す。――あいつだ、あいつだ。

カイはキヨの喉元に目を据えて、険しい表情でその力を使っていた。

キヨは翼を無茶苦茶に羽ばたかせ、カイの力を振り切ろうとしたが苦しくなるばかりで、全身が奮え始めた。

キヨの両翼が強い風を生みだし、木枠の窓ガラスが割れて破片が外に飛んでいった。

―苦しさから解放できる方法はひとつしかない。あいつの喉にくちばしを刺してやれ。

胸の中でうなづいたキヨはしかし、目の前に現れた人物に我を取り戻した。

「はい、おふたりさんそこまで」



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