日蔭にゆれる羽

―――――



「グォーガーグォーガー」

コーヒーの声だ。

何か言いたげに鳴いている。

まるで、好きな子に散々振り回されて振られたような情けない声。そういえば、コーヒーは漆黒の羽を持つスマートな鴉の女の子をしつこく追い回していたなぁ。しつこくするのはだめだよって言ったのにコーヒー言うこと聞かないからそんな悲しい目にあうんだ。

仕方ない、私が慰めてあげるから、おいでよ。コーヒーが好きなきらきらしたビーズで首輪を作ってあげる。コーヒーの焦げ茶の羽によくはえる薄白色の首輪。それをつけたら、きっと女の子にモテるし、振った子も見直してくれるかも。だから、そんなに鳴かないで。

「グォーガーグォグォーガー」

鳴かないでって。焼鳥にするよ。

「グォグォグォグォーガーグォグォ」

だから、

「鳴くなー!うるさーい!グォグォグォってそんなふうに鳴くから、振られるんだ…よ」

完全に目が覚め起き上がったキヨは、布団の上にいたコーヒーに頭突きをくらわせた。力を入れすぎた。コーヒーはくるくる頭を回すと布団の上でのびた。

「キヨなんてことするんです?コーヒーちゃんはあなたのことを心配してずっとここから離れなかったのに」

声がしたほうを向くと、おばさんが木製のおぼんを持って部屋に入ってくるところだった。部屋の窓から夕日がさして、おばさんを橙に色づけた。

おぼんの上にはどんぶりがのっている。あれは、キヨが熱をだしたときやお腹を壊したときにおばさん特製お粥を入れるどんぶりだ。

私、熱でもだしたんだっけと首を傾げて、思いだした。

カイと名乗る、人をいちいちいらつかせる才能と理解不能な力を持つ少年を拾ってきて、そいつにむかついてブチ切れて本性さらけだして、カイに殺されそうになって、おばさんがとめにはいって……。

「ごめんなさい、おばさん」

怒られる前にベッドの上で正座し布団に頭をつけて謝った。

「あの、その」

謝らなければならいことが多過ぎて言葉につまった。おばさんはベッド脇の机におぼんを置くと

「喉はどう?痛くない?」

心配そうに聞いてきたので勢いよく首を振った。腫れた手も喉も何ともなくなっていた。

「平気。おばさんが治してくれたの?」

「ええ」

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