日蔭にゆれる羽
おばさんは優しいしぐさでキヨの頭をなでた。小さいころよくしてくれたことを思いだして懐かしくなった。熱をだしたときそうされると気持ち良くて何度もねだってたっけ。大きくなるにつれて体が丈夫になり、おばさんになでてもらうことはなくなっていた。
不思議なことにおばさんの手は傷や病気を治してしまう。キヨも大人になりさえすればできると思い込んでいたが、おばさんにそれを言ったら笑われて「私にはキヨのように翼がないでしょう。それと一緒なのよ」と諭された。
ちょっとやそっとの傷ではおばさんは力を使わない。キヨが苦しんでるときだけ、そっと癒してくれる。
今回もキヨを助けてくれたんだ。
「ありがとう」
ほっこりした気持ちでいると、おばさんは衝撃的なことを言い放った。
「あぁ、そうでした。カイくんがうちに住むことになりました。仲良くしてね」
語尾を可愛らしくあげるおばさんはにこりと微笑んだ。キヨは自分の耳を疑い聞き返す。
「住むって、この家にあいつが?」
「そうですよ。住む場所がないと言うので」
まさか、カイの頼みってこのことだったんじゃとキヨは一瞬白目になった。
「おばさん、あいつはだめ!無理!見たでしょう。あいつ私を殺そうとした。おばさんも怪我をするよ。危ない危険。この家が火事になってなくなっちゃう」
あの凄まじく腹立つカイと住むというありえない事態を回避しようとカイの悪口を並べたが、もう決まったことと取り合ってくれない。
「あんなやつ私が殺してやる」
ふともらした言葉が地獄耳のおばさんにの耳に入り、額にうっすらとえくぼを作らせた。
「黙りなさい、キヨ。それ以上他人をけなような無意味なことを言ったら怒りますよ」
翼の付け根がヒヤッとした。
「だって…」
おばさんをこれ以上怒らせないためにはうなづくべきだったが、カイと一緒に暮らすのは絶対に嫌だった。
「おふたりとも見直すべき部分がたくさんあるようですね。…カイくん、入りたいなら入りなさいな」
何のことかと思ったら、部屋の扉が開きカイが顔を覗かせた。おばさんが呼ぶと、カイはおばさんの横に並んで、困ったように視線をさ迷わせている。