日蔭にゆれる羽
今だにカイに怒っていたので、目があわないようにそっぽを向くと、おばさんは呆れたようにため息をはいた。
「カイくんから話しは聞きました。キヨはカイくんに助けられたのでしょう。お礼は言ったの?」
言うもなにも、カイに殺されそうになたのに何で感謝しなけきゃいけないんだ、と自分のしようとしたことを棚にあげて思った。
「キヨが川で見つけた石、カイくんのものだったそうですよ」
「え?!ネックレスだよ?」
まさかとカイに目を向けるとうなづいた。
「多分川で転んだときに落としたんだ。でなきゃあんなところにネックレスが落ちてるはずないだろ」
確かに、川の周辺というかこの山に人間が入ってくることは滅多にない。川の上流は涌き水が大量に湧いていて、近くに人が住んでるということはないし、そこからネックレスが一緒に湧いて流れるなんて考えられない。
カイは言いたくなさそうに口をひん曲げて
「母さんの形見なんだ」
と消えそうな声で呟いた。
そんな大切なものを落としたなんて。
罰の悪い思いで言った。
「だったら、最初にそう言えばよかったのに」
「キヨ」
おばさんにたしなめられて口をつぐんだ。
「さぁ、仲直りの握手、ね?」
おばさんは良い考えを思い付いたというように胸の前で両手を叩いた。額のえくぼはいつの間にか、頬に移っていた。
カイがはにかんだ笑みを見せて手を差しだす。仕方なく、カイの手を渋々握りしめたキヨは、これからどうなるなのかと頭が痛くなった。
「キヨ、ぼくのことお兄さんってよんでよ」
はっ?何を言ってんだこいつ。私をまた怒らせる気かと身構えると、カイはへらっとした笑顔で言った。
「キヨは14歳なんでしょ。ぼく、16。年上だから」
夕日が沈み部屋に濃い影が落ち、キヨの気分も一緒に暗くなった。
「お粥食べるでしょ?」
おばさんの場違いな明るい声が部屋に響いた。