日蔭にゆれる羽

自分の足で歩きなよと視線を送るけど、知らん顔でそっぽを向かれた。

「……えーと、この辺だったかな」

気を取り直して川の中を観察する。この辺のはずだなのに、上流を見ても、下流を見ても見当たらない。あんなに強く光っていたものが、なぜ見つからないんだ。天を仰ぐと、雲が太陽を隠していた。

雲が通過するのを空を見上げて待っていると、コーヒーがなにかを見つけたようで川の中流に飛び立った。ぐるぐると旋回してから、くちばしを川に数回入れた。どうやらコーヒーのくちばしでは目的のものに届かないようだ。キヨは川に足を入れて、そこに歩いて行く。川の深さは膝よりも低い。軽々と渡れるはずだったけど、ぬめりけのある石に足をとられて派手に転んだ。

春先の冷たい水が容赦なく全身にかかった。

「いったっ」

しかも、お尻を打った。地味に痛い。

あぁ、だから足はだめなんだよ。コーヒーのように飛んで行けばよかった。水面ぎりぎりを飛べるほど私の羽は器用じゃないけど。

おばさんがキヨのために作ってくれた紺色のワンピースが、びっしょびしょに濡れて最悪の気分だ。

「ああーもー」

水しぶきなんてもはや気にしないで、こんなことになった原因に近づく。川底に、水に揺られる赤いものがあった。石だろうか。

「ガーガー」

コーヒーはこれだこれだというように、キヨの頭にとまった。

「はいはい、取ります。取ればいいんでしょ」

手を伸ばすも水面が揺れて、赤いものが逃げる。やっと触れたかと思うと指先がかすめて、水に流されてしまった。

「あっ」

と言ったときにはもう、遅い。見失ってしまった。
悔しい。あと少しで赤いものがなにかわかったのに。

コーヒーは不満げに鳴き、キヨの頭の上で騒いでいる。かぎづめが頭に食いこんで痛い。

「諦めよう。服が濡れちゃったし」

「ガーゴーガーゴー」

宥めるキヨの、頭を蹴ってばさばさと激しく羽ばたいた。

「なにもう!」

今日のコーヒーは変だ。冷たいところはあるけど、いつもはこんなに乱暴じゃない。

コーヒーは、川の上流のほうへ飛んで行き、石に引っかかっている流木にとまった。

流木……?ここからではよく見えないけど、木じゃない気がする。どちらかというと、倒れている人間。
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