日蔭にゆれる羽
「ガーーッ」
コーヒーが、声高く鳴いた。
転ばないように急いで川を上ると、はっきりと見えた。
やっぱり人間だ。
頭ふたつ分の岩を枕がわりに仰向けに倒れている。体は川に浸かり、頭は岩のおかげで水からでている。
人間の顔の上にコーヒーがとまっていて顔つきはわからない。
「そいつ、死んでんの?」
コーヒーを頭のほうに退けると、案外若い顔。キヨよりも若いかもしれない。
キヨの声に反応したのか、コーヒーのかぎづめが痛いのか、人間は手をあげた。なにかを探しているようで、手をさまよわせている。
「ぼ、ぼくはどうしたんだ?頭が痛い!ん?!あ?!」
わめく人間に驚いて、コーヒーはキヨの肩に場所を変えた。
人間は目玉が飛びだしそうなほど、目を見開いている。気持ち悪い。
愕然とした表情で人間が言った。
「あれ?あっえっ?…天使がいる」
人間と目があってしまった。血走った目が不気味だ。
キヨは人間から離れようとしたが、手を捕まえられた。
「は、離して!」
「ぼくは死ぬのか。視界がせまく……。でもいっか。可愛い天使だから……」
そう言うと、人間の手が力無く川の中に落ちた。死んだ…とキヨは思った。
「コーヒー、帰ろう。見なかったことにしてさ。……なに、文句あるの?」
肩にとまっているコーヒーは意味ありげに、至近距離で見つめてくる。このままほっとくの?信じられない、と聞こえてくるようだ。
「だって、なんか怖いし、死んじゃったし、どうしろっていうの?」
「ガーーゴガーーガーー」
力説しているようだけど、なにが言いたいのかわからない。
どうしよう。おばさんに相談する?でも、面倒なことは押し付けたくない。人間は人間のいるまちに帰ってもらわないと。
よし。そうしよう。人間に見られるのは危険だけど、山の入口のところまでなら大丈夫かもしれない。そこにこの人間を置いていこう。
「コーヒー手伝って。私ひとりで人間を運ぶのは無理があるから」
「ガーーッ」
気合いの入った鳴き声で、焦げ茶色の羽を羽ばたかせた。
キヨも少し気合いを入れて、若干躊躇いながらも人間の両脇に手を入れて持ち上げ……持ち上げ………上がらない。