日蔭にゆれる羽
人間ってこんなに重たいんだ。やっかいだな。

コーヒーも腰のベルトをくちばしで持ち上げようとしてるけど、たいして意味はないようだ。その証拠に人間の体は、少しも動いていない。

「引きずっていけば、いけないこともないかも」

上着の襟を掴んでどうにか川から上げた。

人間を引きずりながら、ごつごつした石や岩がたくさんある河原を進むのは難しい。人間なんてそこら辺に置いとけばいいんだ。そのうち、虫とか動物とかに、骨も残らず食べられるんだから。苦労して人間の住む土地まで、下りていかなくてもいいんじゃないか。と思いながらも、人間の頭を石の上に何度も落として(わざとではない)河原を越えた。

なにもしてないコーヒーが喉を鳴らして、ため息のようなものを吐いた。

「ここに置いとこっか」

飛んで行けたら楽だろうな。

空を仰ぐと太陽の光に目が眩んだ。私なにやってんだろう…。

濡れたワンピースが足にまとわり付き歩き憎い。

日があるうちに帰れるんだろうか。いくら勝手知った山であろうとも、暗くなったら家に帰れる自信がない。太陽はまだ高いけど、この重たい人間を運ぶとなると時間がかかる。

もう一度空を仰いだとき、雲ではないものに太陽が影って何かが落ちてきた。何かはキヨと人間に被さった。布かと思ったが違う。

――網?

混乱と驚きに無意識に翼をばさばさと羽ばたかせる。翼が網に引っかかって絡まってしまった。さらに、石に足がつまずき膝を強く打った。痛みに声がでないでいると、石場の終わりの茂みが大きくゆれて三、四人の人間の男がでてくるのが網ごしに見えた。

「でかいな。水鳥か?」

白髪頭の小柄な男が隣に立つ大柄の男にきいた。鳥というのは多分キヨのことだろう。キヨは混乱が落ち着いて青くなった。

「いや、ちげぇな。迷い鳥じゃか。見たことねぇ…」

キヨと目があうと大柄の男がガラガラの声を詰まらせ、一歩あとずさりし、うしろにいた男にぶつかった。

「おい、どうした」

キャップを目深に被ったうしろの男は不満げに言って、押し返したが、大柄の男はそれをかわし

「ぎぃえぇーーっ!」

と奇声を上げ一心不乱に走って森の中へ消えた。

「いったいどうしたん……だ……」

三人の目がキヨを捕らえた。


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