日蔭にゆれる羽
キヨは恐ろしくて身を縮める。三人の人間の背中には猟銃のようなものが確認できたのだ。
今まで表情を変えず無口だった男が、背中の大きな銃を構えて標的を定めた。
心臓の鼓動が体を震わせる。キヨは思わず目をつむった。
空気が割れるほどの轟音が、怖いほど近くで鳴った。瞬間、自分は終わったと思ったが、いくら待っても衝撃が襲ってこない。どこも痛くないのだ。頭も胸も足も腕も翼も。
ゆっくり目を開くと、猟銃を持った男達からキヨを守るようにキヨの前に誰かがに立っていた。さっきまで、死んでいたと思っていた人間だった。
「なっ」
何?!
網に穴があき、翼に絡まっていたはずの網がなくなり、立てるようになっている。よく見ると羽が所々焦げたような茶色に汚れている。
「うぎゃーーっ!」
男達の怯えた悲鳴が聞こえた。
人間の足の間から、驚愕した顔の男が見える。どうしたことか、白髪頭がハゲ頭に変わり、猟銃を構えていた男は短く叫んで猟銃を投げ捨てた。
キャップを被った男がスキップをして森の中に駆け込んで、ハゲ頭と猟銃の男があとを追って行った。
キヨは呆然とその様子を目で追っていた。なぜ白髪頭がハゲ頭に一瞬にしてなったのかとか、なぜライフル銃を捨てたのかとか銃弾はどこに消えたのかとか、なぜスキップなのかとかいろいろ疑問に思ったがまず少年に聞いた。
「死んでなかったの?」
少年は振り向いて頷いた。
「滑って頭をぶつけて寝てたみたいだ」
柔らかい笑顔で少年は言って、膝を折って目を覗きこむ。キヨは若干気後れして顎を引いた。自分より若い人間と話すのは初めて(記憶にはない)だった。
「天使だよね?その羽、本物?」
天使だと確信してるような言い方だ。
「天使じゃないけど…」
「うっそ。天使にしか見えないよ。あっ!もしかして、菊恵さん知ってる?」
少年の口からおばさんの名前がでたことに警戒しつつキヨは頷いた。
「知ってるけど、おばさんに何か用?」
にこーっと少年は楽しそうに笑ってから、手を差し出してきた。キヨは少年がなにをしたいのかわからず、手のシワに目をこらした。何か欲しいって意味かな。今日のワンピースにはポケットがついてないから、飴玉がない。