日蔭にゆれる羽
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人間に見られたって聞いたらおばさんは何て言うだろう。
おばさんはつねに笑っていて両頬のえくぼが素敵だけど、怒ると額にえくぼがふたつできて、小さいころはその額を見るたびに泣いていた。額にえくぼができたときのおばさんは、人が変わったように怖い言葉を使う。その言葉を絶対に聞きたくなかった。
それに…、どうすればいいんだろう。変な人間を連れてきてしまった。
少年の名前はカイっていうらしい。
その少年カイを家に案内したものの、お客さんが訪ねてきたことは初めてで何をどうしたらいいかさっぱりわからない。おばさんは買い出しに出かけて、夕方まで帰ってこないし。帰ってきたら帰ってきたで、おばさんがどんなことを仰せられるか、考えるだけでも身の毛がよだつ。
とりあえず、体が濡れているからタオルを渡して、いつも食事をするときに使う椅子にカイを座らせた。キヨは自分の部屋へ行き着替えを済ますと、おばさんがいつも座っている椅子に座った。
向かいあったままどちらも無言で居心地が悪い。
「羽、焦がしちゃってごめん」
おおかた全身を拭き終わると(湯気がでていたから自分で熱を作って乾かしたのかもしれない)、沈黙を破ってカイはすまなさそうにうなだれた。
「いいよ、別に」
焦げはよく見ると網模様で、はっ、かっこいいじゃないの。真っ白な羽に飽きてたところだ。
「でも網の上で焼いたはんぺんみたいになっちゃって…。綺麗な羽だったのになぁ…」
いかにも反省してますって態度がかちんとくる。
「それ以上言わないで。あなたの髪剥ぎ取るよ」
キヨの脅しに黙り込み、何か言いたそうに口をもごもごさせた。
「おばさんは夕方まで帰ってこないから。外でてきとうに時間潰してきたら?」
家にいてもつまらないだろうと思い提案したら
「えっ!」
と大袈裟に驚いて、手に持っていたタオルを落とした。
「外って森しかないじゃんか。時間を潰せって、僕が熊に踏み潰されて食べられるよ」
とんでもないとカイは首を横に振った。
「熊が怖いの?自分の存在を熊に教えてあげれば襲ってこないよ。それにここの熊はみんな優しいから食べられることなんてない。森が豊かだから、動物はみんな優しいの」