日蔭にゆれる羽
そんなことも知らないできたのかと飽きれ半分で言うと、疑わしい目で見られた。
「本当なんだから。おばさんが管理してる森は…」
キヨがさらに言い募っていると、ガラスを突く高い音に邪魔されて言葉を途切らせた。窓を見るとガラスをくちばしで突いているコーヒーがいた。
「コーヒー!どこにいたの。私、殺されるところだったんだから!」
そんなのしらねぇよ、早く開けろというように、低い声で鳴く。
窓を開けるとコーヒーは足に掴んでいたものをくちばしにくわえなおして、キヨに自慢するように見せつけた。
「これって」
川で見失ったあの赤い石だ。ネックレスだったようで、石から細い繊細なチェーンが垂れている。石は親指の爪くらいの大きさで楕円形の、カットされていないつるんとした表面が飾り気がなくて質素な感じだけど、原石がいいものなのかすごく綺麗だ。深い赤に吸い込まれそうで、目をそらした。
「あーーっ!!」
突然カイが大声をあげ、コーヒーは声に驚き石を落としてしまった。
カツン。澄んだ音をたて板張りの床に転がった。
「なっ…んで、それがっ!」
すごい勢いでカイは石を掴みとると、まじまじと石を観察した。
いちいちうるさいカイに嫌気がさしてきて、石を横から奪い取ると、カイはキヨの目をきつく睨みつけた。しまりのない表情しかできないと思っていたキヨは、一瞬怖く感じた。
「返して」
静かに言うカイに、首を振り石を持つ両手を背中に隠した。そんなふうに怒ったって全然怖くないんだから。
「嫌だ。これは私たちが最初に見つけたんだから、私たちのもの」
「ガァ」
コーヒーも同意した。
「そう」
冷たいカイの声音に背筋が冷えた。それとは逆に痛いほど石が熱くなり思わず放した。じりっと右手から音がして見てみると、掌が真っ赤に腫れ上がっていた。一拍おいて脈打つ激しい痛みが襲ってきた。
「いっ」
悲鳴を飲み込み、カイを睨みつける。カイがあの変な力を使ったとすぐわかった。
もう限界。いったい何なんだ。人間なんて嫌いだ。あの男たちも、正体不明の意味のわからないカイも。私を見て怖がればいい。
おばさんに怒られたら、全部あんたたちのせいだ。