王子様と甘い生活
「えっ…」
「これでも怖い?」
気づいたら、私は坂井くんに抱きしめられていた。
坂井くんのセーターからは私と同じ、柔軟剤の匂いがして安心した。
悠真の時に感じる安心感と違う。
ドキドキと胸が騒がしくて、でも安心して…なぜか心地いい。首に回る坂井くんの手が少しくすぐったい。
誰かに見られたら、困るのに抵抗できなかった。
「あっ…あった」
「えっ?」
顔を上げると、坂井くんの手にはチャームの付いた鍵があった。
ちりんと優しく鈴が鳴る。
「良かったね。」
「あっ…ありがとう!」
「いーえ。それよりもっと大きい鈴、買ったら?そしたら無くさなくて済むんじゃない?」
坂井くんが意地悪く笑った。まだ抱きしめられたままで、顔が近くて正面が見れない。
「ううん…このままで良いの。」
「へっ?」
「このチャーム、気に入ってるんだ。」
そう言って笑うと、坂井くんは興味なさそうにふーんと言って私から離れ立ち上がった。
「さっ、電車が止まる前に帰るよ。どうせ傘持ってないんでしょ?」
「えっ…なんでわかるの?」
驚いたように聞くと、坂井くんは笑った。
「なんとなく」
それだけ言うと、彼はスタスタと教室の方へ歩いて行った。