先生~あなたに届くまで~

時間帯がいつもより少し遅かったので
電車はそんなに混んでいなかった。


二人で隣同士に座る。


さっきまでは皆一緒だったから
意識はしなかったけど
二人になるとやっぱり緊張する。



「浅川さん、緊張してる?」

急に渡辺君に話しかけられて
驚いてしまって体がビクッとなる。

「ははは。
 そんな緊張しなくても...

って実は俺も緊張してるんだけどね。」

そう言って渡辺君は笑いながら
手を開いて汗を見せた。

「寒い時期に手に汗かくなんて
 よっぽどだよね。」


他人事の様に呟く渡辺君がおかしくて
私は自然と笑ってしまった。


「よかった。笑ってくれて。
 俺も何話していいのやらって
 感じだったから安心したよ。」

思った事を素直に言葉にして
本当にホッとした表情をして笑う渡辺君を
見てると私も安心した。


「正直に言うと
 私人見知りしちゃうから
 二人になってどうしようって思ってた。」

私が申し訳なさそうに笑うと

「俺もだよ。
 話したいと思ってたけど
 いざ二人になると
 何にも話し出てこなくて。」

渡辺君もそう言って笑った。


「渡辺君って
 健が言ってた通りいい人だね。」

私も素直に思った事を口にした。


「そりゃやっと話せる機会だし
 少しはアピールしないとね。」

渡辺君がおどけた様に言うから
それがまたおかしくて私は笑った。



< 155 / 220 >

この作品をシェア

pagetop