先生~あなたに届くまで~

気づいたら降りる駅だった。

渡辺君のおかげで
緊張もだいぶ解けて
あっという間に時間が過ぎていた。


「わざわざこんな所までごめんね。
 今日はありがとう。」

改札前で渡辺君にお礼を言う。

渡辺君はまた優しく笑いながら

「俺が送りたかっただけだから。

 浅川さんがよければ家まで送るよ?」

と言った。


「ううん。駅から近いから。
 本当にありがとうね。」

私が渡辺君の提案を断ると

「そっか。わかった。
 気をつけて帰ってね。」

と全く強制することなく
優しい口調のまま。


「うん。渡辺君も気をつけて。」

私が歩き出そうとすると


「浅川さん。」

名前を呼ばれ腕を掴まれた。

私は驚いて手をほどく事も忘れて
ただ渡辺君の方を向いた。


「あっ。ごめん。」

渡辺君は慌てて手を解いた後


「浅川さん。
 わかってると思うけど...

 俺浅川さんが好きなんだ。

 最初は一目惚れだった。

 いつも何にでも真剣に取り組む姿が
 かっこよくて綺麗だなと思った。

 そしていつも笑ってる姿が
 好きだと思った。

 けど浅川さん見てるうちに
 たまに見せる切なそうな目が気になった。
 悲しそうな顔が気になった。

 今はもうただの一目惚れじゃないんだ。

 一方的に気持ちを伝えてごめん。
 でも言わないと後悔すると思って。」

真っ直ぐに私の目を見て渡辺君は
思いを伝えてくれた。


< 156 / 220 >

この作品をシェア

pagetop