先生~あなたに届くまで~

何度かコールする。

コール音と心臓の音が
一緒に聞こえていた。


『もしもし?』

渡辺君の声と一緒に電車の音がして
本当に駅にいるんだと思うと
自分からかけたのに声が出ない。

『もしもし?』

渡辺君の声がもう一度聞こえる。

私は大きく息を吸って

「もしもし。」

そう話しかけた。

『突然でびっくりしてるよね?
 ごめん。
 でも出てきてくれないかな?』

電話越しにも渡辺君の優しい話し方が
伝わる。

きっとあの優しい顔で笑ってる。


「こっちこそごめんね。
 突然あんなメールしたから...

 駅の前の公園にいてくれる?」

私はきちんと話そうと心に決めた。


『うん。わかった。
 
 家近いんだよね?
 危ないから気をつけて来てね。』

こんな時まで気遣ってくれる渡辺君に
自分の身勝手さを申し訳なく思った。


「ありがとう
 今からそっちに向かうね。」

私はそう言って電話を切った。


渡辺君は本当に優しい。

だからこそ
このままじゃ駄目だ。

友達になんて到底なれない。


そうもう一度心を決めて家を出た。

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