先生~あなたに届くまで~

逃げ道


「おはよ。」

聞き慣れた声が背中から聞こえた。

「おはよう、優輝」

朝一緒に登校するようになって
約一ヶ月が経った。



「渡辺君」から「優輝」になった。



優輝が初めて朝の駅で待っていた日。
春菜と早絵は驚いた顔をした後
“2人で登校しなよ”とさっさと行ってしまった。

春菜はニヤニヤしながら
早絵は...少し苦笑いをしながら...。

それから毎日一緒に登校するようになり、
それが当たり前になった。


「雪音寒くない?」
そう言って優輝は自分のマフラーを
私の首に巻いた。

いいのに...そう言おうとして横を向くと
あまりにも優しく微笑んでいてくれて
言葉を飲み込んだ。


優輝の側は居心地がいい。


いつも家に誰もいないことに
気づいた優輝は何も聞かずに
「頑張りすぎるなよ」なんて言った。

だから私は自然に
自分のことを話すことができた。

本当に居心地がよくて
甘えてる自分が嫌いだ。


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