先生~あなたに届くまで~

席に着いて前を向くとまた先生と目が合った。

早絵を見たまま立ち止まっていた事に
気づいたのだろう。
少し心配そうな顔をしてこちらをみている。


先生は優しい。
だけどその優しさはずるいのだ。
私がどれだけ心を乱されるのかわかっていない。

私は無表情なまま視線をそらした。
私は大人になんてなれない。
笑顔なんて作れない。


間違いで抱きしめる先生も..
その温もりをどこかで求めてるのに
他の人に逃げ出している私も...

最低だ...。

「…あさ…か…わ。
あ…さか…わ。
浅川?」

前から聞こえる自分の名前にハッとして
バッと顔をあげる。

全員がこっちを見てるということは
何度も名前を呼ばれていたのだろう。

優しい声で名前を呼ぶその人を見る。
ふっと微笑んだ愛しい人を見る。


“私バカだな。”


心の中で自分を笑った。


「ぼーっとして大丈夫か?」
先生が話しかける声を一言も
聞き逃さないように
心にとどめておけるように
耳を傾ける。

周りからは「めずらしいね」「具合悪いのかな。」と
優等生の私を心配する声が聞こえる。

ただ春菜は苦笑い。
早絵は……顔を廊下側に向けていて表情は見えなかった。


「すみません。大丈夫です。」

私はやっと返事をした。


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