先生~あなたに届くまで~

「浅川。」

もう一度名前を呼ばれて
私は少しだけ頭をあげた。

私の腕を引き寄せた先生の影が
私の上に落ちる。

そしておでこに
そっと先生の唇が触れた。

「浅川。
気をつけて帰りなさい。

もう名前呼ばれても
振り返っちゃ駄目だぞ。」

先生の息がおでこにかかる。

先生は私の肩を持ち
くるりと来た道の方へ向かせた。

「もう振り返るなよ。」

先生はもう一度そう言って
私の背中をそっと押した。

私は「はい。」と返事して
一歩ずつ歩き始めた。

私はきっとおでこに感じた温かさを
忘れない。

でもそれでいいと思った。

覚えておきたい思い出があってもいい。
それでも前に進むことが
“忘れる”ということだと思った。

「浅川。」

私はもう振り返らない。
その代わりに歩みを止めた。

「浅川。
...気をつけてな。」

私はその言葉を聞いて
また歩き出した。

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