先生~あなたに届くまで~
はっと我にかえると
自分のしていることが
ひどく恥ずかしくて思えて
撫でていた手をすっと止める。
「俺、浅川に嫌われてると思ってた。」
俺は動揺を隠すように
ふざけた声を出す。
彼女は驚いて涙も止まり
言葉も出ないようだった。
その姿がおかしくて
俺は彼女を少しからかった。
彼女が何も聞けない様に。
彼女がもう泣かない様に。
怒って出ていく浅川の背中も
とても愛らしくて
ただ「ありがとう」としか
言葉がでなかった。
自分から突き放したのに泣いてくれた
彼女の姿が頭から離れなくて。
彼女の優しさを無駄にした様で。
彼女の涙は悲しみを知っている様で。
俺は浅川が出て行った扉を見つめる。
バタバタと走っていく足音を
聞きながら、俺はすでに立ち上がっていた。