先生~あなたに届くまで~

浅川は赴任前から優秀な生徒だと
聞いていた。
職員室でも彼女の話しはよく耳にする。


浅川はどんな事も完璧にこなし
あまり感情を表に出さない。
まさに模範的な生徒だと聞いていた。



俺から見ても浅川はいつも完璧だった。


でもその完璧な姿は
いつもどこか寂しげで力が入っていて
目が離せなかった。

彼女がたまに見せる笑った顔や怒った顔
驚いた顔、恥ずかしがる顔を
もっと色んな人に見せてあげたいと思った。


それは間違いなく
教師としての気持ち。


でも今日見た彼女の涙には
正直胸が鳴った。

彼女も同じ様に何か傷を抱えているのか。
そう思うとその正体を知りたいと思った。


靴箱へ向かうと
彼女はしゃがみこみ泣いていた。

その背中は
誰にも見られたくないという様に
小さく見えた。

泣き続ける浅川の傷が
少しでも癒えたらといいと思った。

そしてただ静かな時間が
過ぎていくのを待った。



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