先生~あなたに届くまで~

ガタっと音がした。

私は慌てて涙を拭き
廊下の角に身を隠す。

後藤さんが
廊下を歩いて行く音が響いた。

私は気づかれない様に
口を抑える。

本当はわかっていた。
模範回答のような先生の答えも。
先生が本気でそう想っていることも。

私には後藤さんみたいに
ぶつかる勇気はない。

なのにこの場を動けなかった。

後藤さんに自分を重ねて苦しむ
ずるい自分に嫌気がさす。


だけど
流れる涙は...

謝り続ける心は....


ただ先生を好きだと叫んでいるようで


心は苦しく
締め付けられるだけ。


自分の気持ちがはっきりとすればするほど
涙は止まらなかった。


「浅川?」


目の前に暗い影が落ちた。


それは会いたくて仕方がなかった
優しい声で。

どうしても会いたくなかった
優しい声だった。





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先生?

あの日傷つくことから逃げた私は
逃げるだけじゃ掴めないものが
あることを痛いほど感じたよ。

だからもう逃げたくない...。
先生ももう逃げないで...。

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