先生~あなたに届くまで~



ガラッ。



教室の扉を開けた。

先生は驚いたように振り向き

「あれ?浅川?」と言った。

私は心臓の音を無視する様に

「参考書を取りに来ました。」

と無表情で答えた。


今までと変わらない会話。


“下手したら今までより良い対応かも。
 周りから見たら
 先生を嫌って見えてたくらいだし”

と思うと何だか少しおかしかった。


「浅川でも忘れ物するんだ。」
先生はおかしそうに言う。

その笑顔にまた胸がドクッと鳴ったけど
そんなことは無視しなきゃと思った。


「私も忘れ物位します。」


ちゃんと平静を装えているのだろうか。

すると先生はふっと笑う。


私は不思議に思って先生を見た。


先生は私を見て
優しく笑っていた。


やめてほしい。
笑わないでほしい。

心が乱れる。

もう泣くのは嫌。
傷つくのも嫌。

心を躍らせるのも嫌。
期待するのも嫌。

もう乱されたくない。


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