スマイリー
立たされたまま、進は窓の外を見た。快晴。風は弱く、穏やか。



快晴というものに、進は惹き付けられた。



自分の荒んだ心の中が、混じりけのない素直な水色で洗浄されるようだと感じた。



そういえば、こんなにまじまじと青空を見つめるのは久しぶりだ。



時間に追われて、ただ勉強と登下校を繰り返す単調な毎日の中では、感受性を失うのも当然といえば当然か。



こんなふうに空を見ることができるのも、やはり有華のおかげなのだろうか。



自分でも不思議なほど、焦りが消えていた。「焦り」という概念そのものが消滅してしまったかのように、進の心は穏やかだった。



「お前変わったよな」



空をぼーっと見つめる進を見て、あきらがつぶやいた。



「そーかな」



とぼけてみた自分自身がなんだかおかしく感じた。



「やっぱ大崎と何かあったんだな?」



あきらの追及はしつこい。



「だからーなにもないよ」



「ウソつけ。顔に書いてあるぞ。はは」



あきらは、進の異変が有華との恋路にあるとふんでいる。当たらずとも遠からず、彼の勘と洞察力は、ベテラン刑事に匹敵するだろう、と進は思った。



進もまた言い返そうとして口を開きかけた―が、すぐにやめた。



「前島の顔に?」



いつの間にかあきらのうしろに立っている吉川に気付いたからである。あきらも背筋をびくっと伸ばして硬直した。



「加法定理でもかいてあるのか?ん?」



「す、すみません」



その笑顔をやめてくれ、と、進は心の中で懇願した。
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