スマイリー
授業の問題についていくつか質問をされたところで、進とあきらはやっと座らせてもらった。


―そもそも、進は数学が得意だったし、あきらもまた、有華に次ぐほどの勉強家であった。


だからこの授業で解説されている問題は前日にしっかりと予習がなされていて、進とあきらには解説を聞く必要などなかった。


“はやく終わらないかな”

清々しい青空を、進は頬杖をついてぼうっと眺めていた。授業終了まではまだ15分ほどある。

「なあ、進、進」

小声であきらが話しかけてきた。

「何だよ。今度見つかったらさすがにヤバイぞ」

吉川に気付かれていないのを確かめると、進も前を向いたまま小声で返答した。


「藍先輩、覚えてるか?」

「藍先輩って―市川藍先輩か」

進は顔をあきらの方に向けた。

市川藍(アイ)は進より1つ年上の、中学時代からの陸上部の先輩だった。練習にいつも熱心で面倒見がよく、部員たちは彼女に絶大な信頼を寄せていた。

「それがどうかしたのか?」

「このあいだ駅で見かけたんだよ」

市川藍は県外の大学に進学して、一人暮らしをしていると聞いていた。

「駅にいたっておかしくはないだろう?」

「まぁそうなんだけど」
あきらは少し考え込んだような間をおいた。進の顔色をうかがいつつも、口を再び開いた。

「…男といたからさ。仲良さそうだったし」

「…マジ?」

「マジで」
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