スマイリー
「まぁ、いいじゃんそんなこと。考えるだけ無駄だし、話すだけ無駄。そんな話今聞いても気まずいだけだし」
困ったように笑った藍のその顔はやはり夢だとは到底思えないくらい、くっきりと進の視界に焼き付けられた。
行き場をなくしたようにうつむいた藍が見せた口元だけの笑顔は、雨上がりに佇む紫陽花のよう。
その笑顔を持ち上げて、藍は進と目を合わせた。
薄い色合いと潤いに満ちた彼女の頬が、進の長年押し込めていた意識を強く揺さぶった。
「藍さん」
「ん、なに」
どうせ夢だから、というのもあったかもしれない。
もうすぐ覚めてしまう、という焦りも。
藍の笑顔が思い出させてくれた気がした。あの時進が出せなかった結論を、出すなら今かもしれない。根拠はないが、そう感じたのは確かだった。
「俺、未来から来たって言いましたよね」
「うん」
「俺、藍さんに会いにきたんだと思う」
藍の表情が、きゅっと引き締まった気がした。だがすぐにそれは緩んで、藍は美術品のように整った顔をくしゃっと崩し、
「なんで?」
と呟いた。