スマイリー
「ずいぶんぐっすり寝てたな。疲れてるんじゃないか?」



それだけ言うと、あきらは進の真後ろの席に座った。


進があくびをしたタイミングで、前の席からセンター試験の対策問題(日本史)の解答がまわってくる。



それをあきらにもまわすと、もう一度小さなあくびが出た。再確認した。寝ていた。確かに夢だったのだ。



“しかしリアルな夢だったな”



意外に頭の中はすっきりしていて、妙な清々しさを感じながら進はさらさらと赤ペンを走らせた。対策問題はマーク式なので、1分もしないうちに答え合わせは終わってしまう。



83点。まずまずの出来だ。



「…なんか、うまくいき過ぎて気持ち悪いな」



そう進が心配するほど、すべてがいい方向に進んでいた。対策問題の出来もいい。最近の点数なら、二次試験の出来次第では第二志望の心学社大学ならば十分に勝負できる。



人間関係も良好。親友のあきらに、有華や沙優、正樹。それに藍。皆が、むしろ世界自体が進を中心に動いてくれているような気すらした。



実際はそんなこと全然ないのだけれど、そう錯覚してしまいそうになるほど、進の心身は充実していた。



授業終了のチャイムが鳴り、プリントを配り終えた担任の岡田が教室を出ていくと、教室内の喧騒が一際大きくなった。



進は携帯電話を取り出し、電話帳機能を開いた。



“市川藍”の名前はすぐに表示された。ア行の友人は数えるほどしかいないせいだ。



現代っ子よろしく、見事な速打ちでメールを送信し、あきらにも気付かれない速度で再びポケットにしまった。



藍からメールが返って来たのは、進が帰宅したその日の深夜のことになる。



可愛らしい猫の絵文字と、指でOKの意味を表している絵文字、それからハートの絵文字。合計3文字だけの内容だった。







何かあったら連絡。
そう。



「何かあったんですよ、藍さん」



携帯のディスプレイに呟きかけて、進は机に向かう。



夜は長い。時間はある。


藍に会いたい。


「うーん」


眠気はないが、今夜は勉強もできそうにない。
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