スマイリー
「…何?あたしもっと大食いだと思ってた?」
「あ、いやその。メニュー見てたんですよ。確かに安いですね」
進は咄嗟にA3サイズのメニュー表をついたて代わりに、赤くなった顔を隠す。藍はそれを見るなり右手でメニューを強引にパタリと倒す。そのまま藍の右手はぐっと握られて進の額を小突いた。
「いたっ」
「ちょっと。メニューが見えないじゃないの。そういうとこ、気を遣える男になりなさい」
「…前々から言おうと思ってたけど、それ結構痛いですよ」
額を押さえて進は藍に抗議した。藍は進の顔色には頓着していないらしく、料理を選ぶのに忙しそうだった。
メニューに目をやる藍の顔は、昨日夢ではっきりと見た藍と、少しは違っているようだった。
2ヵ月ほど前に再会したときには何も変わらないと思ったはずだが、やはり1年半も経てば見た目もある程度変わる。もっと言うと、この2ヶ月でも変わるのだ。進が気づかなかっただけで。
真っ直ぐに伸びた綺麗な黒髪はまた少し長さを増して、セミロングと言うには少々長すぎるかもしれない。
部活で健康的に焼けていた肌も、今は上等なシルクの輝きの如く、その白さと滑らかさは机を隔てたこの距離からでも容易に察しがつく。
どちらかと言えば丸顔だった藍だが、今では頬からあごにかけてすっと引き締まり、濃すぎないメイクがその整った顔立ちを見事に引き立たせている。
高3の時にはまだ垣間見られた幼さが薄らぐ一方で、確実に大人の魅力を増していた。