スマイリー
「ため息なんてついて。幸せ逃げるわよ」



藍は星空を見上げたまま、進に話しかけた。



「藍さん」



「何よ」



「もしも、ですよ。俺が未来から来たって言ったらどうします?」



「そうねぇ、なら、今現在の時間平面上には進が2人いるってことになるわね」



似たようなことを夢でも言っていた。はなから信じていなさそうな返答。今回は本当に嘘なのだけれど。



「別に時間平面の話をして欲しいわけじゃないですよ」



「じゃあ何の話をして欲しいわけ、進は」



腕時計に目線を落として、興味なさそうに藍がたずねてきた。10分ほど待っているが、まだ電車は来ない。



「…別に」



「何。なんか聞いて欲しいの?あたしに」



何とも言えない透明感をはらんだ美声。こんな藍を手放した男は、本当にバカだ、大バカ。



「実は、未来では藍さん、大地さんと付き合ってるんですよ」



「…ウソよね?」



「ウソです」



途端に藍のこぶしが勢いよく飛んできた。



「先輩をからかうんじゃない」



「いてて…未来から来たなんて信じてないくせに」



額をさすりながら、文句を言う。



「からかったことには間違いないでしょ。あたしさっきまで傷心だったのよ?空気読みなさい」



「でももう元気になったんでしょ」



「ええ。不本意ながらも進のおかげでね」



「素直じゃないんだから」



「それはあんたでしょ」



不機嫌な声を出しながらも、藍の顔は笑っていた。
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