スマイリー
5分か、10分か、いや、もっと随分長い間、ふたりは無言で向き合っていた。
「…で?」
腕を固く組んだまま、憮然とした表情を顔に張り付けているのは、他ならぬ市川藍その人。
「…なんなのよ?」
実に十数分ぶりに発せられたセリフには、進が返答できないほどの重厚な威圧感が宿っていた。
「怒らないから言ってみなさい」
全体的に平凡としか言い様のない自分のステータスには心から納得しているものの、自分はたまに自分でも驚くほどの行動力を見せることがあった。そういう自覚は少しあった。
「ホントに…突飛すぎるのよ、あんた。何か言い残したことでもあった?」
そう聞かれると、ますます言葉に詰まるのに。
言い残したことがあるか?
進の心の奥底は、ずっと同じ返答だ。「もちろん、ある」。
表面だけで否定しても、何も変わらない。今の進の気持ちが曖昧でも、あの日の進の気持ちはまっすぐだったから。
昨日の夢で思い出してしまったから。
「進?」
「…あの」
「うん?」
進の中に葛藤はあった。有華の存在、大地のこと。あるいは単純に、昔のことを告白しても意味がないからという、もっともな理屈が、進の言葉を詰まらせていたのかもしれない。
「好きでした、その、藍さんが」
でも結局は、言わないとなんだか気持ち悪い。
思い出してしまったからにはそれなりのケジメをつけないと、あんな夢を見た意味が解らないし、そもそも有華と正々堂々恋愛できないような、勘違いにも近いプレッシャーをずっしりと感じてしまっていた。
人間、追い詰められないと行動できない。それをたった今立証してしまったかのように、言葉は意外にすんなりと口をついて出た。
反対に、藍は黙ってしまったけれど。
「…で?」
腕を固く組んだまま、憮然とした表情を顔に張り付けているのは、他ならぬ市川藍その人。
「…なんなのよ?」
実に十数分ぶりに発せられたセリフには、進が返答できないほどの重厚な威圧感が宿っていた。
「怒らないから言ってみなさい」
全体的に平凡としか言い様のない自分のステータスには心から納得しているものの、自分はたまに自分でも驚くほどの行動力を見せることがあった。そういう自覚は少しあった。
「ホントに…突飛すぎるのよ、あんた。何か言い残したことでもあった?」
そう聞かれると、ますます言葉に詰まるのに。
言い残したことがあるか?
進の心の奥底は、ずっと同じ返答だ。「もちろん、ある」。
表面だけで否定しても、何も変わらない。今の進の気持ちが曖昧でも、あの日の進の気持ちはまっすぐだったから。
昨日の夢で思い出してしまったから。
「進?」
「…あの」
「うん?」
進の中に葛藤はあった。有華の存在、大地のこと。あるいは単純に、昔のことを告白しても意味がないからという、もっともな理屈が、進の言葉を詰まらせていたのかもしれない。
「好きでした、その、藍さんが」
でも結局は、言わないとなんだか気持ち悪い。
思い出してしまったからにはそれなりのケジメをつけないと、あんな夢を見た意味が解らないし、そもそも有華と正々堂々恋愛できないような、勘違いにも近いプレッシャーをずっしりと感じてしまっていた。
人間、追い詰められないと行動できない。それをたった今立証してしまったかのように、言葉は意外にすんなりと口をついて出た。
反対に、藍は黙ってしまったけれど。