スマイリー
「あんたね。あたしに告白する前に有華を落としなさい」



不敵な笑みを浮かべて、藍が毒づいた。



「…は?大崎を、落とすって」



「有華と付き合えってこと。あんたはとにかくもっといい男になりなさい。最低でも有華と釣り合う男じゃなきゃ、あたしとは釣り合わないわよ」



次の電車がホームに滑り込んできた。藍が帰宅するにはこれがいわゆる終電だ。



「好きなんでしょ?有華が」



「いや…俺は藍さんのことを言ったんだけど」



「だから、あたしに告白なんて未熟も未熟。笑止千万ね。あんたは有華みたいな手のかかりそうな子と付き合って、男を磨きなさい。ああゆう完璧系な子は大抵ワケありだから、一筋縄じゃいかないわよ」



軽快に話しながら藍は電車に再び乗り込んだ。



「今度また引っ張ったら殺すから」



忠告する藍を見ながら、進は何も言えないでいた。そんな進を見る藍は、ふっと息をはくように表情を崩した。



「ありがと、進」



藍は背伸びして、進の頭に手のひらをポンッとのせた。








その姿は、夢の中の藍と奇妙なほど一致した。







藍が手を引っ込めると、すぐに電車は厚さ数センチの鉄の扉で2人の間を隔てて発車進行。本当に気が抜けるほどあっさりと、ホームからいなくなってしまった。



ガランとしたホーム。急に寒さが増した気がしたけれど、胸の突っかかりは減ったような気もした。



フラれたのか、遠回しに?



でも、言えた。なんとか。



「…うん、少しは軽くなったかも」



ホームに突っ立ったままの進の後ろを、進の“終電”がちょうど発車してしまったところだった。
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