スマイリー
予想外の人物の登場に、頭は冷えきって完全に停止した。



「敬太先輩って、え、陸上部の敬太先輩?」



やっと口が開いたと同時に、肩から荷物がドサッとずり落ちた。



「…うん」



思考回路が錆び付いてしまったみたいに、何もセリフが出てこなかった。



それを察したように、有華が口を開いた。



「け、敬太先輩とちょっと面識あってさ、連絡とってるんだ。そしたら、西京で陸上部入らないかって。あたし運動神経ないけど、なんかあの人って信頼できるし、大学で何か打ち込めるもの探したかったし、それで、その」



ひとつの推測ができたと同時に、進はあきらに心の中で文句を言った。有華が自分を好きかもしれない、だと?



「あ、あたしは西京受けるけど、進が帝二受けるのは応援する。あ…英語も教えるし、毎日!なんでも聞いて」



「…おぉ。ありがとう。あー、頑張れよ、ほんとに。それじゃあ」



「あっ…うん、また明日」



有華の慌てように、進はもっと慌てた。荷物を担ぎ直し、逃げるようにその場を去った。
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