スマイリー
クラブハウスを出てグラウンドの脇を通り、まっすぐ進むと正門。途中で右に曲がって体育館と校舎の間を抜ければ2、3年生の昇降口の向こうに西門がある。
ちょうど下校する生徒がまばらになった頃で、昇降口の付近で西門に向かって歩く後ろ姿が秋本翔一だとすぐに分かった。
「翔一!」
「…進」
振り返った翔一は、沈んだ声で反応した。
「追いかけて来てくれたんだ」
「当たり前だ。なんでやめるんだよ」
進はそのまま小走りで翔一の腕をつかんだ。
「俺さぁ、入学するときに親と契約したんだよね」
腕をつかまれたまま、翔一は低い声で話し出した。
「順位100番以下になったら部活やめるって。それで、2年になってから授業についていけなくなってさ。最初はまだ何とかギリギリカバー出来てた。でも、ついにやっちまったんだ」
「…先週の実力テストか」
「そう。みんなには悪いと思ってる。でもこのままじゃあ、俺ずるずる行っちまうから」
覚悟で固められた言葉に、進は気圧(けお)された。
今では翔一の気持ちも分かるが、当時は翔一が逃げているようにしか見えなかった。