スマイリー
進は次の日の朝一番に、翔一の教室へ頭を下げに行ったのだった。翔一も、俺を殴ってくれと申し出たが、丁重に断った。



その後進はしばしば得意科目の数学を翔一に教え、程なくして翔一は順位を大幅に上げた。晴れて部活に復帰した翔一は、笠松たちとリレーで地区大会に出場し、4位に入賞した。



「翔一は、確か心学社志望だったかな」



回想を終えた進はベッドに寝っ転がったまま、向かいの勉強机に立て掛けてある集合写真を眺めた。3年の最後の地区大会の時に撮ったものだ。



男女合わせて二十数人の集合写真の中、進は最前列で、右側に1年の杉山正樹、左側に秋山翔一、ふたりと肩を組んでばか笑いしている。



こんな写真が撮れたのも、敬太のおかげだ。



そんな敬太が、有華を西京に誘っている。



「やばい、まさかこれ、出る幕なしか?」



有華が西京に行くと断言しているのは、つまりそういうことなのだろう。



有華と敬太は、多分そういうことなのだ。



「となると、俺は帝二行かなきゃ気まずいかもなぁ。西京にしろ帝二にしろ陸上部入るつもりだったし」



有華のことを考えて憂鬱になるのは初めてだった。敬太の人柄、器の大きさを知っているだけに、かえってその憂鬱さは重さを更に増すのだった。



「う、いかん。集中だ。勉強、勉強。帝二。やってやるぞ」



この際有華の英語力も最大限利用してやる、そんなへそ曲がりなことを無理やり考えて、進は机に向かった。
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